LOGIN「ええっ!やったぁぁぁ!!」
私は喜びの余り、一人叫ぶ。黒崎さんからの一通にこんなにドキドキしたり、嬉しくなる。恋愛ってみんなこんな気持ちになるのかな。
スマホをタップし、返事を打ち込む。
<はい、大丈夫です。よろしくお願いします>今回はすぐ黒崎さんから返信が届いた。
<良かったです。詳細はまた連絡しますね>黒崎さんとご飯に行ける、嬉しすぎて夕食のことをすっかり忘れてしまい、焼いていたハンバーグを焦がしてしまった。
黒崎さんを優先に考えちゃったけれど、土曜日はバイトが入っていたことを思い出す。
一人代わってくれると言ってくれた子がいて、これで正々堂々とご飯に行ける。
次の土曜日が待ち遠しい。木曜日を迎えた。
明後日は、ついに黒崎さんとご飯に行ける日だ。 そう考えると、何気ない日常生活が明るくなる。 黒崎さんからの連絡はあまり来ないけれど、土曜日の十一時に駅前で待ち合わせをしている。 食事場所は黒崎さんが考えてくれると返信してくれた。「いいな。ついに明後日デートじゃん」
表情が明るい私を見て、優菜がツッコんできた。「そうなんだ。すごく緊張する。男の人と二人でご飯行くの、初めてなんだ」
「いいじゃん、いいじゃん。楽しんできなよ。どんな人なんだろうね!あ、でも簡単に身体は許しちゃダメだよ」
「そ、それはわかってる!」
優奈は彼氏がいるから、経験済みなんだろうな。
そんなことを言われても実感が湧かないよ。 優菜と別れ、バイト先に向かう。「お疲れ様です」
そう声をかけながら、従業員専用口からカフェの中に入った。「東条ちゃん。今日、あのお客さん来てるから、近くに行かなくていいからね。何か言われても、違うスタッフが伺うって断って」
店長が、川口さんが来ていると教えてくれた。先日渡されたメモの内容には、お客さんの名前であろう川口という苗字、電話番号、メールアドレスが記入されていて、さすがに店長にも相談している。
今日、来てるんだ。
嫌な予感がしたけれど、店長をはじめスタッフの仲間が気を遣ってくれ、川口さんと接触することはなかった。 しかし今日に限って、川口さん《おきゃくさん》は、帰らなかった。 混雑時は時間制限を設けるチェーン店とは違い、うちは時間制限のないお店だ。 長時間に渡り過ごしていくお客様も多い。 結局、閉店時間にならないと帰らなかった。 バイトが終わり、帰る際 「東条ちゃん、気をつけて帰ってね。まだあのお客さん、近くにいるかもしれないから。もしなんか感じたら、すぐ連絡して」 店長から念を押された。 川口さんは閉店まで居たことがない。 考えすぎかもしれないけれど、近くで待ち伏せをしている可能性もある。「はい」
返事をして、従業員専用口から帰る。 もしもの時のことを考え、スマホをポケットに入れて、すぐ出せるようにしていた。駅へ向かって歩く。
その時、前方から川口さんが現れた。ここは店通りの裏道、人通りは少ない。なんでいるの? 私のこと、待ってたの?
私がなんて声をかけようか困っていると 「東条ちゃん。なんで、僕に連絡をくれないの?連絡先渡したのに。ずっと待ってたんだよ」 川口さんは怒っている様子だった。恐い。どうしよう、店長に連絡をして助けに来てもらおう。
そう思い、ポケットにあるスマホを取り出す。「おい、人が話しているのにやめろよ!スマホをしまえ」
怒鳴られた。川口さんの様子がおかしい。
もう一度スマホを見てしまったらさらに逆上をし、何かされかねない。 でも、助けを呼ばなきゃ。 私はとっさにスマホをポケットにしまうフリをし、感覚で覚えているトークアプリの場所を押し、トーク履歴が一番上にあるはずであろう、優菜の画面の通話ボタンを押した。 実際にきちんと画面を見ながら操作しているわけではないため、繋がったかどうかわからない。お願い、繋がって!
優菜じゃなくてもいいから、誰かにこの状況をわかってほしい。
繋がっていることを祈りながら、こちらの音声がわかるよう音量は最大にした。「すみません。お客様と個人的なやり取りはお店で禁止をされているため、できません」
そう伝え、川口さんのいない方向へ走ろうとした。「おい、待て!」
川口さんは私を追いかけきた。 私はもともと運動が苦手だ。特に走ることが遅い。 相手は五十代くらいの男性だが、すぐに追いつかれ、リュックを掴まれた。 反動で私は転倒をしてしまった。「キャッ!」
季節は夏だったため、服装も軽装。 転倒し、アスファルトへ接触したところからは血が出ているような痛みがする。立ち上がろうとすると、川口さんが目の前にいた。
再度、逃げようとすると 「逃げたら、どうなるかわかるよね?」 そう言って彼は、ナイフと思われるようなものを私の顔の前にチラつかせた。私、ここで殺されちゃうの?
恐怖で身体が動かない。「僕は東条ちゃんと話がしたいんだ。傷をつけるつもりはないよ。さあ、立って。公園へ行って二人でゆっくり話をしよう」
それからも美桜と連絡も取ることができず、俺からも接触は避けていた。 そんな日、美桜が急に俺の前へ現れた。 まさか彼女が来てくれるなんて。 今すぐ抱きしめたい、抱きたい。すべてを話してしまいたかった。 けれど、それでは今までのことが無駄になってしまうかもしれないから。 彼女はとても悲しそうな顔をしていた。 そして電話を終えて部屋に戻ると「さよなら」の手紙が置いてあった。 当たり前だ。自分が嫌われたと思って勘違いしてしまうのも無理はないし、俺が美桜に感情がないと思ってしまうのもこんな態度をとっていればそうなる。 ギュッと手を握りしめる。絶対にすべてを終わりにさせて、迎えにいく。 何度だって謝る。美桜が許してくれるまで。 例え、美桜に気持ちがなくなっても、もう一度好きになってもらえるよう努力する。心の中で決めた。「黒崎くん、話ってなにかな?」 俺は社長室に一人訪問をしていた。 アポイントはとっておいた。<亜香里さんのことで>と。 社長は俺の本来の目的を勘づいてはいない。「亜香里さんから脅されているんです」 俺は先日録音した彼女とはじめて食事に行ったレストランの時の音声を社長に聞かせる。 社長はぴくっと眉を動かしたが「こんなこと、娘がするわけがない。きみが作った音声なんじゃないのかな?AIも進化している。作られたものだ」 納得していない。「信じてくれないのであれば、鑑定に出しても良いです。それと、これを見ていただきたいんですが」 俺は自分で調査していた会社の収支報告書の不正を社長に資料として渡し、説明する。 ここから、絶対に挽回してやる。「何がしたんだ?」 社長はデータがすでにどこかに送付されていることに怯えて、声が震えていた。「この会社を辞めます。その変わり、もう二度と、俺に関わる人たちすべてに関わらないでほしい。それだけの簡単な条件ですよ」 やっと交渉できるまでに整った。 俺になにかあった時に頼むと、緑川さんにデータを送ってしまったから。 緑川さんにだけ迷惑をかけてしまったけど。彼なら笑って許してくれる。 これで美桜のところへ迎えに行ける。 彼女は、こんなことをしてしまった俺を受け容れてくれるだろうか。 柄にもなく人生で一番緊張していたと思う。すべてを美桜に話した。 彼女はこんなにも酷いことをしてしまっ
「黒崎さん。焦ってますかー?可愛い。別に何もしませんよ。もっと黒崎先輩から優しくされたいだけです。私、黒崎先輩のことめっちゃタイプで。推しからは優しくされたいのに、黒崎先輩、全然心を開いてくれないからぁ」 俺に優しくされたい? もし断ったら、祖母の方は予想できる。 美桜に何をする気だ。「俺がこのままだったらどうするんですか?」「えっと。黒崎さんの大切なものを壊したくなるかもしれません」 彼女はふふっと上機嫌に笑っている。「わかりました。大竹さんの指示に従いますよ」 俺は観念したかのように、ふぅと息を吐く。「えー。嬉しい。指示ってなんか、私が黒崎さんのこと支配しているみたいで。なんかゾクゾクしますね」 この子は、性癖も変わっているのか。「今日から黒崎さんは、私の黒崎さんです」 大竹さんはそう答え、追加で注文していた赤ワインを飲み干した。 絶対こんな状況、早く乗り切ってやる。 美桜には危害が加わらないよう、今は極力接触するのはやめよう。 大竹さんはお酒を飲みすぎたみたいで、運よく泥酔状態だ。 この後、ホテルにでも誘わるかと思ったけれど、運が味方をしてくれた。 彼女をタクシーに乗せ、別ルートで帰る。 美桜へ連絡し、会いに行く。しばらく会えなくなる。電話もメールも控えなければならない。 大竹さんが何を考えているのか、わからないうちは連絡もできない。「俺を信じてくれますか?」 美桜にそう告げると「はい。信じます」 美桜は迷いなくそう答えてくれた。 もっと抱きしめていたいけれど。「仕事でしばらく会えなくなります。すみません」 そう伝え、その場をあとにするしかなかった。 美桜は「わかりました。お仕事、無理しないで頑張ってください」 いつもと変わらず優しい笑顔で伝えてくれて。必ず迎えに行くと決めていたのに。「黒崎先輩。今日、はじめての外回り、よろしくお願いします」「お願いします」 今日は彼女とのはじめての外回りの日だ。 あの悪魔の食事会から、大竹さんは少し落ち着いた。もちろん、会社では言葉は柔らかくするよう気をつけているし、ランチにも一緒に行っている。 仕事終わりにも誘われることがあったが、仕事が残っているからと伝えた。 どんな仕事が残っているのか、専門用語を並べれば、大竹さんは何も言ってこなかった。 取引
その二日後――。「えっ。本当ですか?」「ああ。だから黒崎も気をつけた方がいいぜ。今回は俺たちの様子を見ていた他の社員が何人か間に入ってくれたみたいで、大事にはならなかったけど。厳重注意で俺は大竹さんと話せなくなった。本来なら異動みたいだけど、今回は免除だって」 二日目、俺が大竹さんから食事に誘われた時にかばってくれた上司が「セクハラをした」とされ、本部へ呼び出されたと教えてくれた。 告発したのは秘密にされているが、大竹さんしかいないだろう。「ごめんな。俺、彼女と関われなくなったから。他の事情を知っている奴にも引き継いでおく。黒崎とは普通に話しても大丈夫だから」 謝ってくれたが、彼は何も悪いことなどしていない。 嫌がっている俺と彼女の間に入ってくれただけなのに。「俺の方こそすみません。間に入ってくれたから」「いや。違う。運が悪いよな。社長の子どもだからって。マジで甘やかされて育ってるんだろうな」 気にするなと言い、彼は去っていく。 後味が悪い。 この二日間のうちに何度も食事に誘われているが、断っている。 ボディタッチ、身体に軽く触れてくる行為もされているが、かわしているつもりだ。 まさか、気に入らないことがあるとこんな権力を使ってくるなんて。 他の社員にも迷惑はかけられないな。 どうやって対処したらいいのだろう。 大竹さんのせいで、気を遣うことが多くなった。 ストレスも増えていったが、美桜とのメッセージや電話で自分を取り戻せる。 ああ、早く問題を片づけて、美桜と会いたい。 そんなことを想いながら、月日は流れていく。 大竹さんのことを仕事以外では拒否し続けていたある日、残業をしていく俺へ向けて「黒崎先輩。私、入社して三週間くらいになるんですけど。歓迎会もしてもらえなさそうなんです。誰も提案してくれなくて。黒崎先輩、一緒に飲みに行きませんか?」 大竹さんの黒い噂が広まってから、誰も彼女に関わろうとはしない。 巻き込まれたくないからだ。「わかりました。上司に伝えておきます」 部長クラスに伝えれば、嫌でも開かれるだろう。「私、黒崎先輩と二人だけで行きたいです」 誰にも聞こえないように、そっと耳元で囁かれた。 彼女なりに俺を落とそうとしているみたいだけれど、何も響かない。「すみません。彼女がいるので、女性と二人きり
次の日、いつも通り出社すると、大竹さんはまだ来ていなかった。 なぜか安堵し、自席に座り、今日のスケジュールを確認する。 始業時刻ギリギリになり「おはようございます」 彼女は「間に合ったぁ」と言いながら、打刻を押した。 さすがのマイペースだな。 別に時間に間に合っているのなら、咎めることはできない。 朝礼が終わると、俺は大竹さんの元へ行き「昨日の質問のフィードバッグをしますので、こちらに来てください」 誰も座っていない大き目のデスクへ案内をした。「はい!わかりました」 彼女は明るく返事をしてくれ「ここは……」 俺の説明をうなずきながら聞いている。 頭には入っているのだろうか。 そんなことをふと思ったが「他に何か質問はありますか?」 そう聞くと「大丈夫だと思います」 すぐに返答があった。 別に良いか。「今日の午前中はこちらの資料を読みながら、電話対応を聞いてください。わからないことがあったら、メモしてもらって。午後にまたフィードバックします」 資料の山を渡すと彼女は明らかに表情を曇らせたが「わかりました」 そう返事をして、自席へと帰っていく。 やる気は感じられないけれど、かといって酷い態度でもない。 午前中は自分の仕事に集中ができた。 だが、お昼休憩時「黒崎先輩!昨日、お願いしたこと覚えていますか?」 まだ自席にいた俺に、彼女はふふっと口角を上げながら話しかけてきた。 昨日お願いしたことって。 もしかして、会社の近くのお店を紹介してほしいっていうメッセージのことか?「覚えています。けれど自分で探索した方が新しい発見とかあると思いますので。それに、俺は女性好みのお店を知りません」 そこまで面倒を見る必要はないだろう。「ええー。冷たいです。まだ入社二日目なのに。私、まだ誰も仲良い人がいなくて心細くて」 なんて弱音を吐く。 たしかに男性社員が多い職場だ。 こういうことも、教えなきゃいけないのか? 考えていると「大竹さん。俺で良かったら一緒に行きますよ」 上司が間に入ってくれた。「えっ。ありがとうございます。でも今日は黒崎さんがアドバイスしてくれた通り、一人で調べて行ってみます。ありがとうございました」 彼女はあははっと笑い、ブースから出て行く。「あんなにわかりやすい態度、取らなくたって
「はい。わかりました」 仕方がなくポケットからスマホを取り出し、連絡先を交換した。 美桜と会った時、俺から連絡先を交換しましょうなんて言った時は、あんなにも緊張していたのに。 相手が美桜じゃないと、こうもなにも感じないんだな。 美桜のことを思い出し、ふっと口元が緩むがおさえる。 そういえば、いつも昼休憩時は美桜にメッセージを返すのに、今日はできていない。 大竹さんの前で返していたら、何を言われるのかわからないな。帰ってから、美桜にきちんと伝えておくか。 午後は、電話対応などのマニュアルを読みながら、実際に社員の対応を見学してもらい、わからなかったところはメモをして、データに残してもらった。 明日はそのフィードバックをする。 最初のうちは真剣に聞いていた大竹さんも、最後の方は飽きてきたらしく、眠そうにしていた。「お疲れ様でした。俺は残業をしていくので、帰ってください」 定時のベルが鳴り、大竹さんに帰宅時の注意点などを伝える。「わかりました。お疲れ様でした。また明日もよろしくお願いします」 彼女は頭を下げ、帰って行った。 自席へ座り「はぁ」息が漏れる。 いろんな意味で疲れた。こんな毎日がしばらく続くのか。想像しただけで嫌になるな。「黒崎。お疲れ様。疲れただろう?明日からは、ちょこちょこサポートするから。ごめんな」 上司が話しかけてきた。「いえ。お気遣いありがとうございます。でもさすがに疲れますね」 素直にそう伝えると「珍しいな。お前が愚痴みたいなの話してくれたことってないから。なんか感動した。さすがのお前でも、あの子相手じゃ疲れるよな。俺も見てたけど、社会人としてもまだまだだし、親のすねをかじったような子だった。可愛いけど、可愛いだけじゃ俺たちの仕事は済まされないもんな」 コトッと俺の机に缶珈琲を置いてくれた。 飲んでと言って、上司は去っていく。 パソコンを開くと、かなりのメッセージが届いていた。 ああ、これから確認したら帰りは今日も遅くなるな。美桜とゆっくり電話、できるだろうか。 今日は美桜の声を聴きたくてたまらない。 帰宅をし、すぐに美桜に電話をかけた。 すぐに出てくれた彼女はいつもと変わらず<お疲れ様です。蓮さん、大丈夫ですか?こんな時間まで> 俺のことを気にかけてくれた。「今日も遅くなってしまいました
「大竹亜香里です。よろしくお願いいたします」 彼女はペコっと頭を下げる。 社員もそれに合わせ、軽く会釈をした。 社長が退席をし、部長が大竹さんに向かって話しかけている。数言話したかと思えば、こちらに向かって歩いてきた。「黒崎さん。大竹さんです。よろしくお願いします」 それだけ言うと部長はそそくさと歩き、自席へと戻ってしまった。「はじめまして。黒崎です。今日からしばらく研修担当者になります。よろしくお願いします」 俺が挨拶をすると「大竹亜香里です。よろしくお願いします」 彼女は俺へペコっと頭を下げた。 それから、マニュアルに従い、社内の案内をし、今後しばらくの一日の流れについて説明をする。 大竹さんは「はい」と返事をしながら、俺の話を真剣に聞いているように見えた。 しばらくはパソコンで社員の共有事項を見るように説明をしたあと、自分の仕事を確認するために、自席へと戻る。 さきほどまでは「普通」だったが、一体、どんな子なのだろう。 基本的な社会人としての対応はできるのだろうか。 俺の席からは彼女の席が見える。うしろ姿だから顔は合わせないが、手元などを見れば、何をしているのかわかるように席を配置してもらった。 とりあえずは指示通りにパソコン画面を見ているな。 午前中は何もなく、昼休憩時間になる。「お昼は、社員食堂でもいいですし、持ち込みももちろんできます。時間内に帰ってこれるのであれば、外で食事もできますから。持ち込みの場合は、精密機器があるので、飲み物等はキャップが閉められるものを持ち込んでください。何かわからないことがあったら、あとで聞いてください」 単調すぎたか? いや、社長の子どもだからと言って、特別愛想良く対応する必要もないだろう。 一通りの説明をし、自席へ戻ろうとした時「黒崎先輩。お昼、一緒に食べてくれませんか?こう見えてもまだ緊張していて。何も買ってきていないし、会社の近くにどんなお店があるのかまだわからなくて。社食、一緒に行ってくれませんか?」 彼女は上目遣いで俺を見つめている。 思わず「ご飯くらい一人で食べたらどうですか?」と言いたくはなったが、上司の言葉を思い出し、止めた。「社長と一緒に食べたらどうですか?」なんて言葉も思い浮かんだが、さすがに冷たすぎるだろうか。 今日一日くらいだけなら、仕方がないか
「はあ?」 思わず優菜が声を上げたが「大丈夫。行こう?」 私たちはその場から離れる。「ああ、ムカつく!なにあれ?」 空いている教室で優菜と話す。「どうするんだろうね。どうやって黒崎さんと会うつもりなんだろう。連絡先だって知らないのに」「わからない。だけど、私は負けない」 頭を抱えそうになるけれど、蓮さんは私のことが好きだと言ってくれている。それに人を簡単に傷つける彼女は、きっと蓮さんは嫌いなタイプの子だ。可愛いからってすぐに好きになるような男の人ではない。蓮だってしばらく恋愛はしていなかったって言っていたし、社内からモテるってこの前言われてた。真帆ちゃんに騙されるわけがな
彼に連れられて、寝室に入る。 寝室もシンプル、大きなベッドがあり、隣に本棚があるくらいだった。 ベッドの上に私が座ったのを確認した彼は「俺、リビングにいるので何かあったら呼んでくださいね。何も考えず、ゆっくり休んでください」 私の頭に手をおき、髪の毛を撫でてくれた。「おやすみなさい」 彼が離れようとしたとき「ありが……とう。黒崎さん」 自然と言葉が出てきた。まだかすれている。 彼はフッと笑い、優しい顔をし、部屋から出て行った。 黒崎さんの香水の匂いが微かに残るベッドで眠りにつく。 何も考えるな。そう自分に言い聞かせた結果、思った以上に早く眠りについてしまった。
私が落ち着くまで、黒崎さんは何も言わず抱きしめてくれた。 心が麻痺していなければ、好きな人に抱きしめられているということはすごく嬉しいことだと思う。 せっかく黒崎さんが抱きしめてくれたのに、ドキドキするという感覚がなかった。 でも、抱きしめられて落ち着くことができたのは間違いではない。 リビングに戻り、消毒をしてもらう。「い……!」 消毒は、想像以上に沁みた。 私が苦痛に歪む顔を見て「すみません。もうちょっと我慢してくださいね」 そう言いながら彼は、消毒と軟膏、ガーゼ、包帯などの処置を施す。 黒崎さんってどんな仕事してるんだろう。会社員っぽいけれど、医療職なのかな。
黒崎さんのマンションに着き、タクシーを降りる。 タワーマンションと言うのだろうか、三十階以上はあるように見えた。 田舎から出てきた私にとっては、一度は住んでみたいと憧れを抱くような高層マンションだ。 こんなところに住める黒崎さんって、すごい人なのかな。 彼のうしろを歩き、マンションの中に入る。 暗証番号のようなものを彼が入力すると、エントランスのドアが開いた。 エントランスには管理室のようなところがあり、中は見えなかったが電気がついていた。 エレベーターに乗り、彼は二十五階のボタンを押す。 エレベーターを降りるとホテルのようなタイル張りの長い廊下が続いていた。 彼が







